■ Essay 24・・・・・・「おいしい空間・その9/落葉樹の熱環境利用」 (共同執筆:TAICS/長谷川えいこ) 前回のコラムでは、冬は温かく、夏は冷たく感じる、井戸水の恒温性を利用するための工夫をご紹介しましたが、 今回は落葉樹の生み出す、夏は木陰の涼しさや、冬は日溜まりの暖かさなどの、季節によって生み出される敷地内 温度差を住宅の熱環境に活かした例を紹介したいと思います。美味しくたくさん実のなる大きな柿の木が二本ある お宅の建て替えに当たって、邪魔になりそうな位置にある柿の木を「二本とも何とか残せないか。」との建て主の ご要望をきっかけに試みた事例です。プランを作ってみると柿の木を残すと何とも複雑な形態になることが判りま した。そこで柿の木を残すために生まれた坪庭を積極的に利用して、柿の木の木陰を最大限利用出来る形態にし て、夏の木陰に生まれた涼風による通風と、坪庭からの冬の日当たりを確保する事を試みました。 実は井戸水利用をしたお宅と柿の木の坪庭をつくったお宅は同じです。エアコンに頼ることなく、少しずつ自然の 涼しさや暖かさを集めて、暑くなく寒くない環境をつくろうというものです。この夏は都内でも停電が予定されて います。電気が止まったとたんに良好な環境と無縁になるような設計はできる限りしたくないものです。今私達に 強いられている節電は、これまであまりにも電気に頼り過ぎてきた生活を悔い改めなければならないと感じさせる 良いきっかけになったような気がします。夏冬通して温度が一定の井戸水利用もそのひとつですし、夏は緑が繁 り、冬にはその葉が落ちることで日光を調整してくれる落葉樹は本当にすばらしい日射コントロール装置です。 そこにおいしい果実がなれば、文字通り本当においしい空間になります。 そんなおいしい設計を、これからはなおさら積極的に進めていきたいものです。 |