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 Essay 11・・・・・・「デッドエンドの思い出」を読んで


残されたのは混沌とした喪失感

短編小説集です。全部が悲しい話。表題作の「デッドエンドの思い出」が特に悲しい。疑ったことのない愛する人、信じていた価値観、大事にしていたものすべてを失って、つらくて切なくても、傷ついても、見知らぬ町で喪失感だけを抱えて生きて行く、主人公の「ミミ」。あまりにつらくて自分の心の痛みの深さも理解できず、泣くことも思い出せない「ミミ」。やがて訪れる果てしない喪失感、寄る辺のない心持だけが主人公に残された確かな感覚。でも生きて行くしかない。なんだか現代の建築に似ています。共有するべき大切な伝統や地域性、信ずべき価値観やイデオロギーを失って、混沌とした喪失感だけが残された確かな感覚。

 それでも何かを作り出して行かなければならない。デッドエンドの世界で生き続けて行くために。あるいはいつかデッドエンドのような状況を抜けて生きて行くために。


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